GOOD DESIG LAB の研究活動により抽出された重要項目を北斗七星理論として集約した。参加企業の事例は、ここにあげた項目に添って解説する。
ビジネスモデルは7つの要素が結びついて全体を構成し、1〜4行程までの質が事業全体の創出価値を決定する特に重要なプロセス。各項目の順序はプロジェクトの特性ごとに異なる場合があるが、ここでは基本形プロセスを紹介する。
賃貸管理業の価値創出 賃貸のオーナーたちにバリューアップを強要することは困難である。オーナーに依存せず、賃貸管理業者が主体となって、管理している賃貸全体の価値を向上させる仕組みを創り出すことが生存戦略上、必要だと考えた。
『食』という需要 入居者の多くが学生であり、学生のスポンサーは母親という事実。母親は衣食住において、「住」の金銭的優先度が落ち「食」が重要視される傾向を発見。
「食堂」の開設 入居者であれば利用できる食堂を開設。管理業者スタッフが在中し、入居者と日常的に会話することで、賃貸の些細な不調もヒアリング可能となり、管理業者としてのサービス向上に貢献している。
安心・安全な「食」 食材は地場食材/近隣商店街で仕入れる。賃貸オーナーの畑から取れた食材を使う/入居者の家業の食料品を使う等、安心・安全のコンセプトを徹底。
安心・安全な「空間」 食堂は入居者のカードキーで入ることが出来るクローズな空間。一方で入居者が連れてきた人は食堂を利用できるオープンさで、オープン&クローズなコミュニティ形成を実現する。GWや夏休みの売上が落ちる時期であっても一般開放はせず、入居者の「安全/優位性/特異性」がなくなることはしない。
直接的な利益の放棄 最初は朝200円/昼・夕700円を検討したが、利益がほぼ無いことが確定していた。他の飲食店と明らかな差別化を図るため、価格を再設定した。→ 利益は食材と人件費に投入。食べれば食べるほど、おいしいものが出てくる仕組。→この食堂自体が 「広告宣伝」であるという判断。
ネガティブ要素のリデザイン 従来は使い勝手が悪いという評判だった入居者のカードキーを、食堂の共通キーとすることで、新しく食堂用の鍵を配布することなく導入することを実現。実用的かつ、安心・安全・優位性のアイコンとしてのリデザインに成功。
デジタル&アナログのコミュニケーションデザイン 日替わりのメニューはSNSで公開され、入居者の母親も食事内容が把握でき、安心を継続的に提供することがブランド構築に繋がっている。店内ではあえて発券機を使わず、オーダー表を書く/配膳を受ける等あえて説明が必要な手順を採用し、接触機会を設けている。
トップダウン 企画・立案・マネジメントは新しい社長によるトップダウン。要素の取捨選択・収益性の判断は社長以外の人間には困難。
細やかな軌道修正 全ての仕様を最初から決めず、初志のロジックに則り、都度判断し、選択をする。この柔軟さも、サービスの伸びしろを高めるための要素。
人と場所の居抜き 管理している居抜き物件に飲食店があり、腕の良い料理人が居るが、経営に行き詰まっていた。→ 料理人はそのままに、当該飲食店を食堂にすることで、自社と物件オーナーのリスクを回避。
食堂と社員 自社社員の食堂利用料を無料とし、社長だけではなく、社員が食堂に居る滞在時間が長くなるようにした。
価値の伝達 管理業者は、契約してから入居者との付き合いが始まる。選ばれるためには自社の良さを伝達する必要があり、この食堂は、その伝達手段として有効なツールとなった。
ユーザー = 一個人の視点の獲得 食堂での日常的な会話を経て、入居者と不動産管理業者の関係ではなく一個人に対するコミュニケーション/認識が可能となった。
参加型のサービス研鑽 ビジネスモデルの仕様のついて開始当初から完全に決定していた訳ではなく、様々な意見を受け入れて完成した。→ 一緒に育てる要素がなければ、企画を自分のモノとして扱ってもらえない。
食堂のニーズと効果 当該食堂を日常的に利用することで、更新手続きをしても長く住みたい、という入居者が増えた。長く住んでもらう方が賃貸オーナーの負担が少なく、当該食堂の価値創出は賃貸オーナーにも還元されている。
食堂の継続性の証明 現時点では管理物件数が増加したわけではない。賃貸オーナーが管理会社を変えるのはハードルが高く、また当該食堂が持続可能なサービスなのか様子を見ている状態。今後サービスを継続していくことで、総合的な収益が成立していることを証明する必要がある。
業態多角化の可能性 管理している物件の入居者の中に保育園があり、朝食を食べずに登園する人たちのニーズに応えてケータリングを開始することとなった。賃貸管理業務とは全く異なる方向に業態を伸ばしていく可能性がある。
業界に普及する可能性 食事付きマンションは存在するが、当該ビジネスモデルのように、地域一帯の賃貸の共有食堂を別途設けることが業界のスタンダートとなる可能性がある。